廃業を考え始めたとき、多くの経営者が最も悩むのは従業員のことです。「いつ、どう伝えるか」だけでなく、退職金・社会保険・解雇予告など、法律で決まっている手続きが複数あります。順序を間違えると、廃業のスケジュール全体が遅れます。税理士の視点で、押さえておきたい4つの手続きを整理します。

廃業を考えるとき、最初に従業員のことを整理する理由

廃業の判断・スケジュール・費用は、従業員数によって大きく変わります。従業員が一人もいない場合と、10人いる場合では、必要な手続きの量も期間も全く異なります。実費の見積もりを始める前に、まず従業員対応の全体像をつかんでおくことが大切です。

帝国データバンクの滋賀県内企業「休廃業・解散」動向調査(2024年)によれば、2024年の滋賀県内の休廃業・解散件数は528件で、2016年以降で最多となりました。背景には経営者の高齢化と後継者不在があり、従業員を抱えたまま判断を迫られるケースも増えています。

廃業を決める前の数字や手続き全体は 廃業を決める前に確認したいこと でも整理しています。本記事では、その中の「従業員対応」に絞ってお伝えします。

解雇予告と解雇予告手当

廃業による従業員の解雇は、労働基準法20条で「30日以上前の予告」または「平均賃金30日分以上の解雇予告手当の支払い」が義務付けられています。30日前予告と手当の組み合わせ(例:20日前予告+10日分の手当)も認められます。

予告のないまま即日解雇すると、解雇予告手当の支払い義務に加えて、労働基準監督署への申告や訴訟のリスクが高まります。廃業を決めたら、まず「いつ予告するか」のスケジュールを引くことから始めます。

厚生労働省 解雇等のルールでは、解雇予告に関する基本的な手続きが整理されています。

廃業のご相談では、解雇予告の30日前ルールが間に合わないトラブルにならないよう、最初の段階で注意事項として確認しておくケースがほとんどです。

退職金の支払い(規程の有無で大きく変わる)

退職金は法律で支払いが義務付けられているわけではありませんが、退職金規程がある場合は規程通りの支払いが必要です。規程がない場合でも、慣行として支払ってきた実績があれば支払い義務が生じることがあります。

中小企業退職金共済(中退共)に加入している場合は、共済から直接従業員に退職金が支払われます。会社の手元資金からの支出を抑える効果があるため、廃業時の資金繰りに大きく影響します。

退職金規程の有無、中退共の加入状況、未払退職金の引当が決算書に計上されているか。これらを廃業判断の前に確認しておくと、必要な手元資金が見えてきます。

社会保険・雇用保険の手続き

会社を解散すると、社会保険(健康保険・厚生年金)と雇用保険の資格喪失手続きが発生します。

社会保険は、日本年金機構への「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出が必要です(日本年金機構 事業所が行う手続き)。提出期限は資格喪失の事実発生から 5日以内 が原則で、社会保険関連では最も短い期限です。

雇用保険は、ハローワークへの「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出し、離職票を従業員に交付します。こちらの提出期限は資格喪失の翌日から 10日以内 が原則。離職票がないと、従業員が失業給付の手続きを進められないため、廃業時の必須対応です。

社保(5日以内)と雇用保険(10日以内)で期限が異なる点を見落とすと、社会保険側の遅延が先に発生しがちです。漏れがあると従業員の手続きが遅れ、生活に直接影響します。

再就職支援とハローワーク連携

廃業による解雇は、会社都合の離職にあたります。従業員が再就職を進めやすくなるよう、求職活動への配慮や、ハローワークとの連携が現場では行われています。

具体的には、求職活動のための時間確保、ハローワークでの集団相談の設定、求人情報の提供などです。一定規模以上の離職が発生する場合、事業主には再就職援助計画の作成が求められることがあります(厚生労働省 再就職援助計画)。

法律上の義務とは別に、長年働いてくれた従業員への配慮として、これらの支援を計画に組み込む経営者の方が多くおられます。

従業員対応にかかる時間と費用の目安

ここまでの手続きをすべて行うと、解雇予告手当、退職金、社会保険関連の事務代行費用などが発生します。従業員一人あたり数十万円から百万円超になることもあり、廃業の実費全体の中で大きな割合を占める場面が少なくありません。

具体的な実費の見積もり方は、会社をたたむのにいくらかかる?廃業の実費の見積もり方 で全体像を整理しています。従業員対応のコストは、その中の「人」に関わる部分として組み込みます。

ご相談の前に、できる範囲で現状に近い財務状況を整理しておかれると、その後の検討がスムーズに進みやすくなります。

廃業前に税理士と整理しておくこと

廃業時の従業員対応は、労務と税務の両方が絡みます。労務は社労士、税務は税理士の領域ですが、廃業全体の費用計算と資金繰りの視点で見ると、両方を合わせて整理することで判断が早くなります。

退職金の支払い原資、解雇予告手当の試算、社会保険関連の事務、再就職支援にかかる時間。これらを廃業全体のスケジュールと費用に組み込んで初めて、「いつ・いくらで・どう進められるか」が見えてきます。相談の流れと料金は 初回相談のご案内 で詳しくお伝えしています。